Logos
2026-09-15
届ける意志
「伝わらなければ仕方ない」で終わらせず、伝えるために自分から動く。
起業してから、営業について本格的に考える機会が増えた。そして実際にやってみて、営業という仕事に対する見方が大きく変わった。
以前は、営業をすごく単純に捉えていた。
とにかく多くの人にアプローチして、断られて、それを繰り返しながらなんとか仕事を取る。あるいは、人と長く付き合って仲良くなり、その関係から仕事をもらう。数をこなすか、人付き合いを頑張るか。そんな仕事だと思っていたし、正直、あまり魅力を感じていなかった。
もちろん、量をこなすことも、関係を築くことも大事だ。ただ、実際にやってみると、それだけではなかった。誰に何をどう伝えるか。そして何より、どういう心持ちで相手に向き合うかが、ものすごく重要だった。
相手が得をするから提案する
一番大きく変わったのは、「何のために売るのか」という考え方だ。
以前は、自分たちが仕事を得るために、自分たちが利益を出すために売るのだと思っていた。でも今は、営業の出発点は「相手が得をするから提案する」ことにあると思っている。
自分たちが本当にいいものを持っていて、それが相手の課題を解決できる。使ってもらえれば、相手の仕事や生活がよくなる。だから、こちらから声をかける。その結果として、自分たちにも利益が生まれる。
そう考えると、営業に向き合う気持ちはずいぶん変わる。
「買ってください」とお願いするだけではなく、「あなたにとって価値があると思うので、話を聞いてほしい」と伝える。そのためには、まず相手が何に困っていて、何を大切にしているのかを理解しなければならない。
相手は、最初から自分の課題をはっきり言葉にできているとは限らない。困っていることに慣れてしまっていたり、解決できると知らなかったりすることもある。
会話の中でそれを見つけて、整理して、自分たちの提案とつなげていく。相手が「なるほど、それなら自分に必要だ」と納得できる筋道を、一緒につくっていく。
ここに、営業の知的な面白さがあると感じた。
ただ数を当たればいいわけでも、愛嬌があればいいわけでもない。相手を理解する力も、仮説を立てる力も、説明するロジックも必要になる。営業は、思っていた以上に難しくて、だからこそやりがいのある仕事だった。
求められるのを待つだけでいいのか
もう一つ、強く思うようになったことがある。
自分たちのプロダクトに本当に価値があると信じているなら、すでに「欲しい」と言ってくれる人にだけ売っていていいのだろうか。
もちろん、欲しい人に届けることは大切だ。でも、それだけでは届かない人がいる。まだ自分の課題に気づいていない人や、自分たちのプロダクトの存在を知らない人だ。
その人にとって役に立つものを持っているのに、こちらから何も伝えなかったら、相手はそれを選ぶことすらできない。もっとよい選択肢があると知らないまま、困り続けてしまうかもしれない。
そう考えると、アプローチしないことも、一つの選択なのだと思った。何もしなければ、断られることもない。ただ、届けられたはずの価値も届かない。
もちろん、自分がいいと思っているだけで、すべての人に合うわけではない。だからこそ、相手の話を聞いて、本当に役に立てるのかを確かめる必要がある。
そのうえで「この人の力になれる」と思うなら、最初から関心を持ってもらえていないことだけを理由に、引き下がる必要はない。なぜ価値があるのか、どうすれば伝わるのかを考える。その努力まで含めて、営業なのだと思う。
「伝わらなければ仕方ない」で終わらせていた
この変化は、仕事だけにとどまらなかった。恋愛や人間関係についても、同じようなことを考えるようになった。
以前は、自分は自分らしくいて、その結果、自分を好きになってくれる人と付き合えばいいと思っていた。
こちらが相手を好きでも、相手が自分に好意を向けていないなら、縁がなかったのだろう。友達でも恋愛でも、わざわざ働きかけてまで関係をつくる必要はない。そう考えていた。
相手に別の好きな人がいるなら、その人と一緒になればいい。内心では「自分のほうが幸せにできるのにな」と思っていても、「それが伝わらないなら仕方ない」と諦めていた。
でも今振り返ると、そこには自分から動くことを避ける気持ちもあったと思う。
自分のよさは、相手が自然に見つけてくれるもの。理解してもらえないなら、相性の問題。そうやって、伝えるための努力を相手に預けていたのではないか。
本当にその人を大切に思っていて、一緒にいることで幸せにできると信じているなら、その気持ちは自分から伝えればいい。自分がどんな人間で、相手とどんな関係を築きたいのかを、言葉や行動で示せばいい。
「自分のほうがいい」と心の中で思っているだけでは、相手には何も届かない。
もちろん、最後に選ぶのは相手だ。それでも、選んでもらうために自分から動くことと、相手の意思を尊重することは、両立できると思う。
自信があるなら、届けるために動く
営業と恋愛は違う。ただ、自分自身の姿勢という意味では、共通する変化があった。
それは、「最初から自分を求めてくれる人を待つ」だけではなく、「自分が価値を届けたい相手に、自分から働きかける」ようになったことだ。
この人に商品を使ってもらって、ビジネスがうまくいってほしい。この人と関係を築いて、一緒に幸せになりたい。そう思うなら、その思いを相手に伝えるところまで、自分でやる。
自分の価値を信じることと、その価値が自然に伝わるのを待つことは、別の話だった。
むしろ、本当に価値があると信じているからこそ、伝わるように工夫する。相手を知り、言葉を選び、行動する。自信は、その努力の理由になるのだと思う。
営業には、今も泥臭さがある。断られることもあるし、簡単にはいかない。でも、もう「単純だけど大変な仕事」だとは思っていない。相手を理解し、自分たちの価値を届ける、難しくてやりがいのある仕事だと思っている。
そして、営業を通じて変わったのは、仕事のやり方だけではなかった。
「伝わらなければ仕方ない」で終わらせず、伝えるために自分から動く。その大切さに、もっと早く気づきたかった。